修徳vs成立学園
Kumazemi Report | 2013-11-16 |
第92回全国選手権東京Aブロック決勝 |
味の素フィールド西が丘(晴) |
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天候も例年になく素晴らしく、雲一つない青空のもといよいよ今年の選手権都大会も決勝を残すのみとなりました。決勝にはA・Bブロックともに競合私立4校が残っていることもあり、会場には開門前からチケットを求める長蛇の列が見られました。1試合目開始時点でチケット完売とのこと、それだけ注目の決勝戦であることがうかがい知れます。
さて、Aブロック決勝は成立学園と修徳高校のビッグマッチが実現しました。成立は細かいパス回しから前線が連動してスペースを生み出し、その空いたスペースを畳み掛けるように有効活用するサッカー、対する修徳は6番久保君、8番池田君の両ボランチを軸に相手攻撃の芽を早め早めに摘んでいくプレッシングサッカー、ともにスタイルの違うサッカーを得意とします。
互いに決勝までの道のりは決して楽なものではなく、この試合の勝敗を分けるのは体力・技術を超えた精神力や運をも呼び込むことが重要になることは容易に想像できました。
試合開始直後から予想通り成立のポゼッションサッカーが目を見張ります。細かいパスを何本も経由し、DFラインの4番、5番からのクサビが入ると一気に攻撃陣がスピードアップするあたりの迫力、また、DFラインからのクサビを10番浅野君が受ける際に、その空いたスペースに8番や7番、6番の選手がスイッチングするあたりの戦術は修徳DFの的を絞らせずマークのズレを生じさせます。更に成立11番の中村君は大柄な選手ながら、準決勝同様に足元の技術・縦へのスピードで左サイドを切り裂く突破を何度も仕掛けチャンスメイクします。
一方修徳は、守備に回る時間が多く、サイドアタッカー7番佐藤君・11番小野寺君も低い位置でしかボールが持てず得意のカウンターも単発に終わってしまいます。
しかし、修徳はこの状況を一人の選手が打破します。前半30分に左サイドの5番から10番にパスが出ると、このパスをスルー、9番がワンツーで返すと10番は細かい足裏でのドリブルからエリアに侵入したかと思った瞬間につま先でのシュートを放ちます。密集したエリア内でさらにタイミングをずらされた成立GKも必死でセーブしようとしますが、ボールはするりとGKの手を抜け左隅ゴールネットを揺らし先制点を奪取します。
このプレー、10番田上君の状況判断、瞬時のアイデア、それを具現化した技術、またそれらを共有した周りの選手が生み出したスーパープレーでした。前半のワンチャンスをものにした修徳はさすがです。
後半、まずチャンスを迎えたのは修徳でした。8分に7番佐藤君が右サイドから中央に空いたスペースへ切り込むと前線で待ち構えていた11番にスルーパス、得意の左足からゴールが生まれます。
しかし、ここからでした。筋書きのないドラマとはまさにこのこと、誰もが予想だにしないゲーム展開が待っていました。
後のない成立は前線7番に代えて2年生の上田君を投入します。上田君の左足の精度は折り紙つき、この試合を動かします。後半18分にゴールラインぎりぎりのところに流れたボールをダイレクトでセンタリングを上げるとそこに待っていた10番浅野君の頭にドンピシャであわせ1点を返します。さらに33分、ミドルレンジから左足を振りぬくとアウト回転したボールがゴールネットを揺らし同点とします。あの場面で良くも冷静にあんなシュートが撃てるなと、2年生にして大器の片りんを見せます。さらに畳み掛ける成立は35分、4番の内田君(2年)がオーバーラップを見せ、ゴール前で19番町田君(2年)が粘って落としたボールに反応し右足を振りぬくと、何とゴール上段に突き刺さり3-2と逆転劇を演じてみせます。この20分で試合をひっくり返す成立の攻撃力、何というチームでしょうか。しかも全て2年生が演出しているのです。
逆に修徳は勝利を掴み取ったと思いきや一転して絶望の淵に追いやられます。
会場中、もしかしたら両チームともに成立の優勝を描いたのではないでしょうか。このドラマを演じる選手たちとて、少なからず同じ気持ちだったかもしれません。しかし、誰一人として最後の笛が鳴り響くまで走りを止めません。身体が勝手に動いている感覚でしょうか。時計は刻一刻と進む中、後半ロスタイム1分、修徳はゴールまではだいぶ距離がありましたが10番田上君がハーフウェイ付近からのFKをゴール前にあげると、そのボールに反応した成立の壁に当たるとボールはゴール方向へ向かいます。「まさか・・・」、そのまさかで何とゴールネットを揺らしてしまい、同点に追いつくのです。両チームともに天国と地獄をこの30分弱で味合うことになるとはゆめゆめ思ってもみなかったでしょう。ベンチの選手たちは、まだ試合も終わってもいないのに大泣きし、両手をあわせ祈ったり、とにかく仲間にすべてを託し延長戦へ送り出します。
延長戦に入り、どちらの選手も立っているのがやっとのような状態でしたが、修徳14番関君が延長後半4分にこの試合に終止符を打つゴールを奪います。右サイドで受けた14番関君は縦、縦へ仕掛け、成立DFを揺さぶります。約100分を戦い抜いた成立DFの足が関君のスピードについていけず、GKと1対1の状況を作り出すとアウトフロントから放たれたボールはスライス回転をしながら右隅へ吸い込まれ4-3と逆転し勝利を手繰り寄せます。
ゴールを決めた瞬間、普通なら応援してくれているみんなのところに全員で走って行って喜びを爆発させるところですが、約100分を走りぬいた選手にはそんな体力はどこにも残っていませんでした。その場でガッツポーズするのが精いっぱい、そう感じました。
試合終了のホイッスルがコートに鳴り響き、全国行の切符は修徳が掴み取りました。
観客からはいつまでも、いつまでも鳴りやまない拍手が選手たちを包み、勝った方も負けた方も顔をくしゃくしゃにしているシーンが印象的でした。
今シーズンではだれもが認めるベストバウトであることは疑いの余地はありませんね。
筆者私的な感想ですが、修徳7番佐藤君は昨年から先発で出るくらいポテンシャルの高い選手ではありましたが、最終学年となり攻撃の核としての自覚が彼をより大きく成長させているように感じました。
また、この試合をよくよく振り返ってみると、修徳8番キャプテンの池田君のボールタッチ数が極端に少ないことに気づかされます。修徳の攻守の切り替えには欠かせない選手ですが、この決勝戦は成立の得意とするスペースへの抜け出し、そのスペースを消すために走り回ったのです。そう考えるとサッカーは更に深いスポーツだなと改めて思い知らされました。
さて、東京A代表の修徳高校は、来年1月2日(木)に滋賀県代表の綾羽高校と駒沢陸上競技場での対戦が決定しました。全国での大暴れを期待したいと思います。
取材:TEAM kumazemi
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